“秘めたる情熱”を表現した加藤さんの演出コンテ




まずは当初の企画案(前項画像)にあったコピーを画解きしていく。何度か仕事をしたことのある代理店の担当者が間に入っていたため、加藤さんの“画解きレベル”を理解しており、インパクトのあるタイポグラフィから抽象度を高めたデザインコンテ(左画像)に変更された。加藤さんは単純に画の熱量を下げるわけではなく、“秘めたる情熱”を表現する方向にフォーカス。このデザインコンテでコンセンサスを取り、モーションの作業に入った。



Tips!

キーカットを描いたこのデザインコンテの時点でおおよそのモーションの流れは想定していたそうだが、打ち合わせ時の先方のリアクションを受けて、その温度感をモーションに乗せていくことが大切だという。



ストーリーライン

歴史ある会社の変遷や掲げているテーマなど、“秘めたる情熱”が伝わるようにダイナミックなカメラワークのモーションで表現。ナレーションや音楽を組み合わせて、絶妙なバランスで画解きした。





Cinema 4DとAfter Effectsでの作業工程

Cinema 4Dの作業画面

デザインコンテ時にCinema 4Dで作ったオブジェクトに動きをつけていく。映像冒頭に登場する金の鉱物が徐々に変化していく様子を、時系列順に作っていき、最終的にすべてのオブジェクトが集合するような流れにした。Cinema 4Dで作ったのは各シーン単位で、トランジションはAfter Effectsでつけている。





After Effectsの作業画面

Cinema 4Dで書き出したデータをAfter Effectsに取り込んでカメラワークの追加、トランジション、色づけを行なった。レイヤー数が膨大になるため、色分けやレイヤー名は分かりやすくするのがベストだが、このプロジェクトは加藤さんしか作業しなかったため、自分が分かる範囲で最低限のデータ整理をしたそう。





Tips!
書き出し時間を短縮するテクニック

Cinema 4D上では色がつけられないため、本来はオブジェクトバッファでそれぞれのパーツを書き出す必要があるが、レイヤー数が多く書き出しに時間がかかってしまう。そのため、Cinema 4D時点でキーイングで抜きやすい色に設定しておき、After Effectsで色を置き換える…という小技を使った。これによって書き出し時間を短縮できるだけでなく、データ管理もラクになるという。


本作の場合、あとからオブジェクトに粒子を乗せているため、キーイングに多少の粗さ・ジャギりがあってもルック的に問題はなかったそうだ。







作例解説②
OOAA ブランディングムービー

大木秀晃さん(博報堂ケトル出身のクリエイティブディレクター)が代表を務めるOOAAのブランドムービー。加藤さんが大木さんと直接やり取りしながら制作を進め、コトリンゴさんの音楽に合わせた絶妙なモーションで、OOAAが大切にする“繋がり”を表現した。




クライアントと直接やり取りした本作のイメージボード

完全に任された案件で0→1をどう作るか

OOAAさんのブランディングムービーは、代表の大木さんと直接やり取りしながら、僕ひとりで完結させた作品です。大木さんとは以前から仕事をしていて、ご依頼があった段階からすべてお任せいただいていました。なのでスタートは企画書、キャッチコピー、コンテなどはなにもない状態。音楽はすでにありましたが、画としては僕が0→1を作っていく必要があって、メモのようなイメージボード(下画像)から着手しました。

最初に考えたのはアイコニックなOOAAさんのロゴの形を活かそう、ということです。その丸と三角を使って、大木さんが関わってきた仕事やお世話になった人たちをモーションで表現できれば、と。もうひとつ意識したのは“アライアンス感”。人や仕事が繋がっていく様子、協力して一丸となっている様子を表現できるかどうかがポイントでした。


事前に決まっていたのは、会社のロゴといくつかのキーワード、コトリンゴさんの音楽のみ。アイコニックなロゴの丸と三角を軸にしながら、キーワードにある要素「風」「船」「やかん」などを画解きすることにした。テーマは“アライアンス感”を表現することだった。




“繋がり”を表現した映像のストーリーライン

OOAA代表の大木さんの経歴が画解きされたモーションとして次々に登場し、アライアンス感を全面に出した“繋がり”へ帰着するワンカットの構成。また、OOAAのホームページでループ再生されることを踏まえて、映像のラストは冒頭に戻るようになっている。





After Effectsで加えたオブジェクトの温かな質感

Cinema 4Dでベースとなるオブジェクトを作り、After Effectsで仕上げるという工程は作例①と同様。ただ、本作ではAfter Effectsでオブジェクトに絵本のような有機的な質感を加えた。ビフォーアフターを見ると、シャープでソリッドな印象のあったオブジェクトに温かみが付与されていることが分かる。流れとしては書き出されたオブジェクトのデータを取り込んだ後、プラグインで水彩画のようなタッチに変更、さらにコマ撮りアニメーションのように見えるエフェクトとカラー調整も。最終的に色と色が溶け合うような、独特な質感が完成した。





使用プラグイン「Transfusion – Style Transfer」

AIのアシストによって描画の質感を自動変更するプラグイン。エッジを認識したうえで画のタッチを変更してくれる優れもの。現在は「StyleX」という後継プラグインが販売されている。





プラグインやエフェクトで自然な質感にする

After Effectsで質感をつけるのは、基本的に粒子を足したり、エッジをぼかしたり、やりすぎないように気をつけています。プラグインやエフェクトを使いすぎると、同業のモーショングラファーが作品を見たときに「これ、アレだな…」とバレてしまうんです。

僕はどちらかと言えば厨房の中を見られたくないタイプです。レストランに行って、キッチンから電子レンジの音が聞こえたらちょっと萎えるじゃないですか。だから、なるべく自然な形で質感を加えることを意識していますね。

あと、単純にプラグインやエフェクトを一発でかけるのではなく、組み合わせることも効果的だと思います。OOAAさんの映像では少しピーキーなプラグインを使いましたが、そこにエフェクトやカラー調整を組み合わせて自然に見えるような工夫はしています。






加藤さんが考える“パッケージ力”を高めるコツ

戦隊ヒーロー方式で“大団円”の流れを作る

映像の冒頭から少しずつオブジェクトが登場して増えていき、最後に全員集合することでパッケージ力が高まる。紹介した作例①では鉱物、プレート、リングなどが、作例②では丸と三角のオブジェクトが再集合し、エンディングを迎える。この構成にするだけで画のリッチ感が増す効果もあるという。





映えによる満足感を与える“密度”を意識する

密度も分かりやすく映像のクオリティに直結する。特に映像の知見が少ない人ほど、密度がないだけで「寂しい」「足りていない」と感じてしまうそうだ。ただし、映像全体で密度を高めてしまうと、本来見せたいクライマックスの画力が弱まってしまうため、ギャップを作るためのコントロールも大切になってくる。





人それぞれに翻訳してもらう“余白”を残す

モーショングラフィックスのトレンドは密度が高く、ギュッと詰め込まれた映像。一方で、加藤さんは見た人それぞれに翻訳してもらう余白も必要だと言う。具体性や過度な説明は突き詰めるとキリがなく、ある程度の解釈の余地を残した映像の提案は、できるようになっておいて損はないはずだ。





トレンドのカウンターとして余白も必要

今回、自分なりに“パッケージ力”を高めるコツを考えてみました。パッケージ力が高いというのは、その作品が“完成した”と思えるかどうか、仕上がっている状態に持っていけているか、納品の水準に達しているか、ですね。作品を作っていて、何かがうまくいっていないと思うことはよくあると思いますが、僕が気をつける3つの項目があります。

ひとつ目は「大団円」。これを戦隊ヒーロー方式と呼びますが、レンジャーのレッド、イエロー、ブルー…と順番に見せていき、最後に全員集合して決めポーズをとると、すごく完成した感が出て、これをモーションの映像にも応用しよう、ということです。たとえば、ビールのCMでもその1年間に展開してきたCMをすべて合体させた総集編的なものが年末に流れていたりしますが、まさに大団円の図式ですね。これによって分かりやすくフィニッシュした感がでるんです。この大団円は制作途中で取り入れるのは難しいかもしれませんが、絵コンテなどの段階で意識しておくと、映像のまとまりや分かりやすさが高まると思います。

ふたつ目は「密度」。大団円とも紐づいていますが、映像でも映えていると見ている人は満足するものです。画面内の密度が高いと、単純に手がこんでいると受け取られやすい、と。逆に画面が空いていると“途中感”が出てしまいます。これは納品するためのテクニックとして言っているわけではなく、密度が高いほど納得感は得られやすいはずです。もちろんギャップで見せるために、あえてスカスカな画を作っておいて、終盤で密度を高める…というコントロールも大切ですね。画だけでなく、意味の密度、時間の密度も意識できれば、さらにパッケージ力が上がると思います。

「大団円」や「密度」に対してのカウンターの意味もあるんですけど、3つめは「余白」です。あまり丁寧に説明しすぎると、逆に苦しくなる瞬間があるんですよね…。僕の中では具体的に描くほど、中途半端では許されなくなると思うんです。たとえば、車のピクトグラムをモーションで作るときに、「これが車です」と割り切ってボックスを置けばいいところを、ヘンにSUVのような形状をデザインしてしまうと、「実際はこんな形ではありません」と言われてしまいます。なので、ある程度は見た人に解釈・翻訳してもらう余白は作っておいたほうがいいですね。具体性を突き詰めるとキリがないですから…。

いまのモーショングラフィックスって、要素が多いこと、過剰であることが正義になっているようなトレンドがある

気がしています。SNSでもそういう文化は強まっている傾向を感じますが、その意味でもカウンターとして余白の考え方は持っておいたほうがいいし、余白で伝える提案もパッケージ力を高めるために必要になってきます。この余白に作家性が出る、と僕は思っていて、あまりトレンドに流されすぎると個性が埋没してしまう、とすら思います。

この映像、ちょっとしか動いていないのに、めちゃくちゃいい! という時代がいつ来るのか分かりません。でも、このままみんながゴリゴリ密度を上げた作品ばかり作ってしまうと、あまりよくない方向に行ってしまうのではないか…という危惧感もあるんです。そうなると、アート系のモーショングラフィックスが成立しなくなってしまう。気持ちのいいモーション、価値のあるモーション、その幅が狭くなってしまうのはどこか息苦しいじゃないですか。

僕らはモーショングラフィックスの価値をもっと上げていきたいと考えていて、昨年11月にEDPとして初めて開催した個展もこれに関連しています。モーショングラフィックスの価値を高めるためには、モーションを楽しむ文化を作らないといけません。その文化を作るためには、モーションのことを知ってもらう場を作らないといけない、と。今回はあえてリアルなプロダクトの展示にして、動きにはいろんな効果があることを感じてもらいたかったんです。展示は試験的にスタートしましたが、今後もモーションに興味を持ってもらえるような展示を企画していきたいと思います。



まずはモーションの面白さを知ってもらうことから

TVやSNSで映像を見る機会は多いが、意識してモーションを見ている人は少数派かもしれない。そんなモーションの価値を向上させるためにどうすればいいのか? という出発点から始まったのが「うごきのカタチ」だ。パリで開催された展示はリアルなプロダクト全12台。黒いボールが磁石が仕込んであるポールに沿って動くが、すべて別の動きがプログラミングされている。等速直線運動をしているものもあれば、少し重力を感じるバウンドの動き、慣性が効いているものも。それぞれの動きにさまざまな効果があることを感じてもらいたかったという。





うごきのカタチ

モーショングラフィックデザインの地位向上を鑑み、モーションを視覚だけでなく、実体験できるEDPによる初の展示。昨年11月21日から1週間パリ・マレ地区で開催され、日本での凱旋展示が3月8日(土)からEDPのギャラリースペース「ANewFace」で行われる。





加藤さんの制作環境

加藤さんをはじめEDPのメンバーはリモートワークで作品制作をすることがほどんど。重めのデータを扱う際はEDPのオフィスにあるハイスペックなマシンを使うこともあるそうだが、基本的には自宅のシンプルな環境で作業を完結しているという。


PCメーカー/型番アップル MacBook Pro 14インチ(M1)
メモリ96GB
ストレージ4TB
外部モニター
LG MyView Smart Monitor 31.5インチ4K
その他周辺機器GENELEC モニタースピーカー